おじょこな800字小説 作・塚田浩司 第三十六回「サプライズ」

おじょこな800字小説 作・塚田浩司 第三十六回「サプライズ」

 結婚前から、あらゆる場面で妻にサプライズを仕掛けてきた。

 初めて誕生日を祝ったときは打ち上げ花火を上げた。プロポーズの際にはケーキの中に指輪を仕込み、結婚一周年には寝室を妻の大好きなバラでお花畑にした。これ以外にも様々なサプライズで妻を驚かせてきた。

 結婚三周年はどうしようか。頭を悩ませた末、あるサプライズを思いついた。

 それは、俺が覆面を被り強盗に扮し、家に押し入って妻を驚かせる。そこで怯える妻にネタバラしをしてからプレゼントを渡すという少々過激な演出だ。

 妻もサプライズ慣らしているからこれくらいしなければもう驚いてはくれないだろう。

 結婚記念日当日。この日は出張だと二週間前から妻に伝えていた。

 ドンキで購入した覆面を被った俺は、自宅の玄関の鍵をそーっと外す。足音を立てないようゆっくりと家に上がると、妻はキッチンで鼻歌を歌いながら料理を作っていた。今日は一人なんだから料理なんかしなくてもいいのに、そう思いながら妻の様子を伺った。妻はまだこっちには気づいていない。よし、いまだ。

「おい、金を出せ」俺はオモチャのナイフを手に、ドスの効いた声でキッチンに足を踏み入れた。

 きゃー??

 妻は想像以上に大絶叫した。こんなに驚いた顔の妻は見たことがない。ちょっと可哀想になってきた。もうネタバラシをしよう。プレゼントを差し出そうとした。その時、

「なにやってるんだ」

 男の怒声と同時に脳天に強い衝撃が走った。俺はそのまま気を失ってしまった。

 ※

 目が覚めると妻は俺の枕元にいた。

「あなた、ありがとう。とっても気に入ったわ」

 妻はプレゼントのブレスレットをすでに身につけていた。

「気に入ってくれたなら嬉しいよ。それよりごめんな。ちょっと驚かせすぎたみたいだ」

 俺は起き上がりながら妻に謝罪した。

「たしかにすごくびっくりした。でも嬉しかった」と妻が俺に抱きついてきた。

「喜んでくれたならよかった……」

 妻の温もりの中思った。俺を後ろから殴ったのは一体誰だ。

著者紹介

塚田浩司/柏屋当主。屋代出身。  ※ご感想をお寄せください