シリーズ未来への提案 千曲市誕生20周年 未来を考える 教育から環境

シリーズ未来への提案 千曲市誕生20周年 未来を考える 教育から環境

 「霞たなびく一重山、霧たち渡る千曲川」

 千曲市立屋代小学校の校歌の始まりの一節だ。千曲市大池キャンプ場に向かう国道403号線の途中にある「千曲川展望公園」からは善光寺平が一望できて、屋代、稲荷山、八幡、戸倉、上山田から桑原と千曲市の大半が見渡せる。天気がよければ、北に目を向けると飯縄、戸隠、斑尾、黒姫、妙高の北信五岳か、南東には浅間山まで見える。この素晴らしい自然の景観を見て何度励まされたことだろう。

 高校卒業までかつての更埴市で育ち、東京や名古屋など大都市で仕事をしてきたが、定年退職して最近、実家のある千曲市に戻った。のんびり過ごすなかで、たまにこの公園にきて眺める。

 素晴らしい景観を見ながら、「千曲市は住む人に本当に優しい町だろうか」と自問する。

 「千曲市誕生20周年」とのロゴを見ても、何の感慨もない。ただ毎朝、小学校に昔と変わらない集団登校している児童からあまり「おはよう」の声が聞かれないのはどうしてだろう。たまに大きな声であいさつする子もいるが、下を向いて通っている子が多い。

 今夏前に、小学校の正門近くに若い男女が朝立っていた、たぶん新任の教員かなと思った。前を通っても不審な一瞥があっただけで「おはよう」の声は聞かれなかった。

 「この町に生まれ育った子供たちは、ずっとこの町にいたいと思っているのだろうか」

 「この町は、困っている人の思いに寄り添い、その声を聴き、手を差し伸べているのか」

 同じ校歌を歌っている児童の元気が今一つなのを気にしながら、そんな思いを強く抱いた。

◆「消滅する町」の危機感

 朝、小学生や中学生の登校が終わると、街は静かになる。平日の昼間は歩いている人はほとんどいない。お年寄りは家の中にいて、外出は控えている。遠足や運動会などの小学校の行事があれば別だが昼間、街を歩いている人は少ない。街の商店が減ったことも原因だが、スーパーマーケットには車で出かける人は少なくない。

 信濃毎日新聞などに国政や県外の大企業をはじめ海外の記事を配信している共同通信社の全国自治体の首長を対象にした人口減少問題についての調査(9月17日朝刊掲載)によると、長野県内77市町村のうち「消滅への危機感」を強く抱いているのが、小諸市、大町市、飯山市、塩尻市、佐久市など29市町村、「ある程度抱いている」のが千曲市、岡谷市、飯田市、諏訪市、伊那市、駒ケ根市、中野市、東御市など27市町村だった。一方「抱いていない」のは須坂市、茅野市、飯綱町、南箕輪村の4市町村、「あまり抱いていない」は松本市、上田市、安曇野市の3市のほか、軽井沢町など11町村だった。

 危機感を抱く理由について大町市は「地域コミュニテイーの崩壊、働き手の減少による地域経済の縮小」と指摘し、阿智村からは「あきらめムードが拡大しつつある」といった回答もあった。一方で茅野市は「行政改革を進める中で、街づくりそのものの見直しを行い、危機を乗り越えることができる体制づくりに取り組んでいる」と前向きな回答もあった。

◆「子供に冷たい町に未来はない」

 自分の生まれ育った町が原点であることを強く意識していきたい。時代の変化とともに、隣近所の「ご縁」は薄くなってきているのは仕方ないのかもしれない。しかし、困ったときにお互い助け合い、支え合えるような社会をつくりたいと言えば反対する人は多くはないはずだ。

 ここで参考になる自治体の政策は、兵庫県明石市の泉房穂前市長が打ち出した所得制限なしで「医療費・給食費・保育料・公共施設・おむつ」という5つの無料化。

 子どもは自分の力だけで生きていけない。親にも事情があって、全力で子育てができないこともあるから、社会のみんなで子育てを応援してしかるべきだと考えて、「こどもを核としたまちづくり」をしてきたと話す。実践して、明石市は活性化している。独自の主張であるが、参考にすべきところはあると思う。

 行政には、とにかく目線を低くして、困っている人に本当に寄り添うような対策を打ち出して実行してほしいと期待する。自然豊かな千曲市にずっと住み続けて、「消滅自治体」の懸念がないような街づくりのため少しでも尽くせたらいいなあと思う。「年寄り笑うな、自分行く道。子供怒るな、自分来た道」。この言葉を町づくりの拠り所としたいとも思う。

 今後、この紙面で、教育、防災、環境・清掃の面から「千曲市の未来」につなげる意見などを展開していきたい。

(ちくま未来新聞特任記者・中澤幸彦)

大池キャンプ場に向かう途中にある千曲川展望公園からの千曲市の眺め =2023年9月24日撮影

今年開校150周年を迎えた屋代小学校